朝倉安都子さんは新潟市中央区にある金宝寺の坊守。
前作の詩集『私を呼ぶのは』より10年、先月4月に詩集『産み 生まれ 還り』を刊行しました。
親しみを込めてあっちゃん、と呼ばせていただいていますが、ユーモアで人を和ませつつ、外柔内剛そのものの人。
本書は一昨年まで朝倉さんが代表をつとめた女性のための民間の相談機関「女のスペース・にいがた」の通信「くりあ」に寄せていた詩、10年間分118篇をまとめたもの。

~詩「顔 — 横田滋さん」より~
用を終えて
日本海沿いの道を 車を走らせて 帰ろうと思った
六月の 快晴の 午後
海は 一面 煌めいて
ガラス細工を撒き散らしたよう
夢のように 美しい 手品が 仕掛けられているよう
この海から 北朝鮮の工作員に拉致された少女 めぐみさん
父親の 横田滋さんが
八十七歳で 老衰のため 亡くなった
下校途中に消息を絶った 娘の
情報がもたらされたのは 二十年後
拉致を 北朝鮮が認めたのは さらに五年後だった
横田夫妻は 救出活動に奔走した
映像が 流れる
「父」と書いたタスキをかけて 道行く人に呼びかけている
めぐみさん死亡 と知らされた時は
涙を ぬぐい ぬぐい 堪えた嗚咽が 咳のようになった
孫娘とひ孫に会った報告をする 嬉しい顔
拉致被害者救出活動に 半生を捧げたというナレーションの
めぐみさんが生まれてからの 年月の
年をとっていかれる 滋さんの顔に 見入った
はにかみを含んだような 温和な顔
そして
いよいよ 慈しみ深くなっていかれた 顔
ふいに 娘が 隠される
四半世紀後に タネアカシ だけされて
隠された娘は 戻らないままー
類ない苦渋の人生を
元々 朴訥で 器用でなかったという人が
引き受け
全身全霊で生きられた
そのことがつくりあげた 思いの深い 美しい顔
~「あとがき」より~
この詩集の中で、私には、孫が何人も授かり、父と義母は亡くなり、様々な思いを繰り返すようにしながら年を重ねて、
年とっていくことを味わい、親しい人の老いも見せていただき、見送っていくことの感慨もあります。
故人となられた方もあり、教えていただいたことを、懐かしく、ありがたく、思い出します。
詩に登場するのは、また、悲しい思い、理不尽な思いをさせられている女性たちです。
それは、女性のための相談機関の通信の表紙の詩であることが大きいですが、私も、悲しく、理不尽な思いを経験したからで、
通信のために毎月詩を書くことが、女性たちの苦悩に共感し、考え、表現する中で私自身が励まされ、ここに立って生きていくことを確かめるものだったのだろうと思います。
~帯の言葉より~
朝倉安都子さんの詩は、温かい。
日常の中に埋没してしまいそうな事柄を、ふっと手のひらに載せてくる。
手のひらに載せられた言葉たちは、そのまま昇華して、美しいイメージになる。
美しいイメージは、読んだ人の心のなかで、明日への大きな力になる。
――金井雄二
日々の生活を詠った本書、ぜひお手にとってください。
詩集『産み 生まれ 還り』1冊2000円
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2015年の朝倉さんへのインタビュー記事はこちらから
https://www.e-muse.jp/blog/customer/customer-6042/

▲法話をする朝倉さん
きどあつこ